損益分岐点の計算式は知っていても、自社の決算書のどの数字を入れればよいかで手が止まる方は少なくありません。
損益分岐点売上高は「固定費 ÷(1 − 変動費率)」で求めます。決算書を使う場合は、損益計算書の費用を固定費と変動費に分けるところから始めます。この記事では、科目の分け方、計算例、販売数量で求める方法、Excelでの式、計算でずれやすい点を順に説明します。
損益分岐点売上高や限界利益といった用語の意味は、損益分岐点売上高とは|損益分岐点比率70%・80%の意味とCVP分析で解説しています。ここでは「実際の数字で計算する手順」に絞ります。
変動費率 = 変動費 ÷ 売上高
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)
「1 − 変動費率」は限界利益率のことです。売上1円のうち、固定費の回収に回せる割合を表します。固定費をこの割合で割ると、固定費をちょうど回収できる売上高、つまり損益分岐点になります。
数字を入れてすぐ結果を見たい場合は、損益分岐点計算ツールを使えます。決算書の科目を費目ごとに入力して、固定費か変動費かを選ぶこともできます。
1. 損益計算書から売上高と費用を書き出す
売上高、売上原価、販売費及び一般管理費(販管費)の各科目を、金額と一緒に書き出します。営業利益までの範囲で考えるのが基本です。
2. 科目ごとに固定費か変動費かを決める
売上に比例して増減する費用が変動費、売上に関係なくかかる費用が固定費です。科目ごとに分ける方法は、決算書の数字をそのまま使えるため、中小企業でよく使われます。分け方の目安は次の表のとおりです。
3. 変動費率を出す
変動費に分けた科目の合計を、売上高で割ります。
4. 固定費を(1 − 変動費率)で割る
固定費に分けた科目の合計を、1から変動費率を引いた値で割ると、損益分岐点売上高が出ます。
| 科目 | 分け方 | 補足 |
|---|---|---|
| 売上原価(仕入高・材料費) | 変動費 | 売るほど増える費用の代表 |
| 外注費 | 変動費 | 案件の量に応じて発注している場合 |
| 販売手数料・荷造運賃 | 変動費 | 売上や出荷量に連動する |
| 給与・役員報酬・法定福利費 | 固定費 | 売上が減っても同じ額がかかる |
| 地代家賃・リース料 | 固定費 | 契約で毎月決まっている |
| 減価償却費 | 固定費 | 売上に関係なく計上される |
| 水道光熱費 | 固定費として扱うことが多い | 工場など生産量で大きく変わるなら変動費に |
| 広告宣伝費 | 固定費として扱うことが多い | 成果報酬型の広告なら変動費に |
製造業では、売上原価の中に工場の人件費や減価償却費が含まれていることがあります。製造原価報告書がある場合は、その内訳まで見て、労務費や経費の固定部分を固定費に移すと、結果が実態に近づきます。
どちらとも言えない科目は、どちらかに決めて、毎年同じ基準で分けてください。分け方を毎年変えると、損益分岐点の変化が「経営の変化」なのか「分け方の変化」なのか区別できなくなります。
次の損益計算書(年間)を例にします。
| 科目 | 金額 | 分け方 |
|---|---|---|
| 売上高 | 3,000万円 | — |
| 売上原価 | 1,200万円 | 変動費 |
| 販売手数料 | 90万円 | 変動費 |
| 給与 | 900万円 | 固定費 |
| 地代家賃 | 240万円 | 固定費 |
| 減価償却費 | 60万円 | 固定費 |
| 水道光熱費 | 60万円 | 固定費 |
| その他の経費 | 150万円 | 固定費 |
| 営業利益 | 300万円 | — |
変動費 = 1,200万円 + 90万円 = 1,290万円
変動費率 = 1,290万円 ÷ 3,000万円 = 43%
固定費 = 900 + 240 + 60 + 60 + 150 = 1,410万円
損益分岐点売上高 = 1,410万円 ÷(1 − 0.43)= 1,410万円 ÷ 0.57 ≒ 2,474万円
今の売上高3,000万円に対して、損益分岐点は約2,474万円です。損益分岐点比率は約82.5%で、売上が約17.5%下がると利益がゼロになります。この比率の読み方は、損益分岐点比率70%・80%の意味で解説しています。
商品やサービスの単価がはっきりしている場合は、「何個売れば黒字になるか」で考えるほうが、現場の目標にしやすくなります。
損益分岐点販売数量 = 固定費 ÷(販売単価 − 1個あたりの変動費)
飲食店なら、「1個」を「客1人」に置き換えます。客単価が1,500円、1人あたりの原材料費が450円、月の固定費(人件費・家賃・光熱費など)が210万円なら、210万円 ÷(1,500 − 450)円 = 月2,000人です。月25日営業なら、1日あたり80人が損益分岐点になります。
割り切れないときは、小数点以下を切り上げてください。2,000.4人なら2,001人です。切り捨てると、わずかに赤字が残ります。
セルを次のように並べると、数字を入れ替えるだけで再計算できます。
| セル | 内容 | 入力または式 |
|---|---|---|
| B1 | 売上高 | 30000000 |
| B2 | 変動費の合計 | 12900000 |
| B3 | 固定費の合計 | 14100000 |
| B4 | 変動費率 | =B2/B1 |
| B5 | 損益分岐点売上高 | =ROUNDUP(B3/(1-B4),0) |
| B6 | 損益分岐点比率 | =B5/B1 |
B4とB6は、セルの書式をパーセントにすると読みやすくなります。科目ごとの内訳を別の列に書き、固定費・変動費の列をSUMIFで集計すると、分け方を変えたときの影響もすぐに確かめられます。
年の数字と月の数字を混ぜない
売上高を月の数字、固定費を年の数字で入れると、結果が12倍ずれます。どちらかにそろえてから計算してください。月で見たい場合は、年の固定費を12で割ります。
一時的な費用を入れない
特別損失や、その年だけの大きな修繕費を固定費に入れると、損益分岐点が実態より高く出ます。毎年かかる費用だけで計算し、一時的な費用は別に考えます。
支払利息を入れるかどうかを決めておく
営業利益までで計算すると、本業の損益分岐点になります。借入の利息まで回収できるかを見たい場合は、支払利息を固定費に加えます。どちらで計算したかを書き添えておくと、比較のときに迷いません。
利益が出ていても資金が足りるとは限らない
損益分岐点は「利益がゼロになる売上」で、借入の元本返済は含みません。返済まで含めて必要な売上を考える場合は、資金繰りの面からも確認が必要です。利益が出ているのに資金が足りなくなる理由は、黒字なのに資金が足りなくなる理由で解説しています。
損益分岐点は、損益計算書の費用を固定費と変動費に分け、固定費を(1 − 変動費率)で割れば求められます。結果を左右するのは科目の分け方なので、迷う科目は基準を決めて毎年同じ分け方を続けてください。
自社の数字で試すときは、損益分岐点計算ツールに科目ごとの金額を入れると、損益分岐点売上高・損益分岐点比率・安全余裕率がまとめて出ます。値上げ・変動費の削減・固定費の削減のどれが効くかも比べられます。
損益分岐点比率や安全余裕率の読み方、売上・固定費・変動費率を動かしたときの変化は、損益分岐点売上高とは|損益分岐点比率70%・80%の意味とCVP分析のシミュレーションで確かめられます。